一期一咲

瞳を見つめても
わからない

手を握っても
肩を寄せても

わからない




あなたが何を
考えているかなんて

言葉じゃなきゃ伝わらない



伝わらないのにね




なんでだろう


肝心なことは

肝心な時に



いつも

言葉にできない

晩夏の頃



その夏のことは
すべて
オレンジ色に輝いて

あれは
夢か幻だったんじゃないかと
疑問でいっぱいになる



草原の音
空の色
あなたの匂い

全部が
オレンジ色で埋め尽くされ


陽炎でも見たのか


あなたの輪郭さえ
不確実だった



けれど　

オレンジ色の思い出は
美しい光の中へ
解き放たれて

二度とは来ないだろう
あの夏が

何度も繰り返されるたび

静かに
鮮やかに

蘇ってくる



不思議ね

今もなお
あの日と同じ
オレンジ色の
光を感じると

眩暈がするんだ



体が

心が

思い出す


あなたが

サヨナラを告げた

晩夏の頃を

雨の日は
嫌いじゃない


雨音でかき消される
足音と

雨粒に紛れる
涙が

私の存在ごと
どこか知らないところへ
連れ去ってくれる


心を
空っぽにして

音もなく
歩いて

涙を見せずに
泣いて


あてもなく
彷徨うことの
開放感


悲しみの
向こう側に来た者だけの
絶頂感


これ以上は

ないという

最高に　悲しい　幸福を


これでもか

というくらい
思い知らせてくれる




だから

雨の日は

嫌いじゃない

いくつもの
花を
辿ってきた

風の吹くまま

時には
流れに逆らい

遥か

遠いところまで

別れの辛さを
確かめる間もなく

飛んできた


こんなにも
遠くまで来ないと

あの花が
一番　美しかった

なんて
わかりっこなくて

でも
振り返ってみると

もう
戻れないところまで
来てしまったようだ




時と共に
あなたは変わってゆく


わたしも変わってゆき
時は過ぎてゆく


こうしているあいだ

今も

時は過ぎているのに


あの日の　あなただけは



いつまでも

美しいままだ

あなたと
一緒にいた時間の方が
長いのに


あなたと
いない時間の方が
長く
感じてしまう



バカだね

って

そう言って




そう言って

抱きしめてくれたら



ほかに　なにも

いらないのに